「経営で一番大事なことは、何だと思う?」「ぶれないことだと思っています」
「ぶれないとは?」
「一度決めたことを、すぐに変えない。もし変えるにしても、きちんと周囲に説明や説得を試み、納得させた上で変える。ぶれる、ということと方向転換をすると言うことは本来別物ですから、変えることを怖れる必要はない。トップが自信を持って変えると宣言をすれば、組織はそれに従って整然と動く。しかし、トップがぶれると下はその数倍の【震度】を感じる。震度5や震度6の揺れの中で仕事は出来ません。だからトップは絶対にぶれてはいけない」
「相変わらず、口数の多い男だな」
「すみません。元来の多弁でコンサルタントとしてはずいぶん損をしています」
「しかし開き直っているだろう」
「はい。無口なコンサルタントに憧れてもおりませんし、時代の変化の速度を考えれば、多弁であることが決して悪いことだとは思っていません」
「まあいい。で、うちの会社は今後どうすればいいのかな?」
「質問の意味は、現在の状況をどうすればいいのかと言う意味ですか?それとも今後の展開についてどうすればいいという意味でしょうか?」
「後ろのほうだな。そんなに先のことではないが、引退しようかと考えている。その時組織をどうすればいいのかと思ってな」
「・・・・・・・」
「おや、急に無口になったな。さすがのコンサルタントも微妙な問題になると、無口になっちまうのかな。息子のことなど気にせずに言ってくれて構わんよ。率直に意見をくれないかな?」
「・・・・・・・。選択肢は五つです。息子である常務を社長に据えるか、専務を一時的に社長に据えて息子さんの成長を待つか・・・・」
「残りの三つは?」
「・・・・社長があと5年、社長を続け、専務・常務の下の人間を経営者として育て上げ社長にするか・・・・」
「ひどい言い方だな。専務や息子では会社は持たないと言う風に聞こえる」
「・・・・・・。専務は社長と同い年です。社長として何年もつかどうか。息子さんでは、正直言って会社が持つかどうか・・・・。失礼を承知で、率直に語っておりますが・・・・」
「うちの息子では会社は持たんかね?」
「正直言って、なかなかむつかしいかと・・・・」
「新規事業を興そうって頑張っているんだがな、あんたの目から見たらもの足らんように見えるのかな?」
「率直に言わせてもらえば、だから危うさを覚えています。中小企業はまず【本業】なんです。【本業】あっての新規事業なんですが、失礼を承知で言わせてもらえば、【本業】をやりたくないために、本業とはまったく別な仕事をやろうとしているように見えます。確かに勉強をしているのは判りますが、【知識】と【知恵】は違います。【知識】だけを追いかけても企業経営は出来ない」
「【知識】と【知恵】は別物かね?」
「はい。【知識】は何事かを行うときに、その横や外側にあるものです。【知恵】は、何事かを行うときに直接的に必要なものです。たとえば、道具の名前や由来を知っていることは【知識】です。【知恵】とは、その道具の使い方や用途のことです。両方とも大切なことですが、一義的には【知恵】が優先する。特に経営の現場ではそうです。その順番を間違えると、大怪我をする」
「だから社員が付いていかない、と・・・・」
「はい。何度か会議に参加させていただきましたが、決して組織が一枚岩ではない。社長の言うことだから聞くけれども、常務についていくのは嫌だと言う空気を感じます。失礼を承知で言っていますが」
「うちの息子に何点をつけるかね?後継者として?」
「・・・・・」
「はっきり言ってくれよ、遠慮はいらん」
「25点でしょうか」
「何点満点の?」
「百点満点です」
「そんなにひどいかね?」
「全国でいろいろな後継者や幹部候補たちを見ています。少なくとも頑張っている後継者や幹部候補生たちは、どこかで命をかけています。つまり必死さが表に出ている。その必死さが組織を支え、組織を引っ張ってるのです。そしてその必死さが明日を迎えさせる」
「うちの息子には必死さがないと・・・・」
「はい・・・・。会議にいつも遅れるのは常務です。ほかの職員が必死に時間調整をして会議に駆けつけるとき、常務は毎回遅刻する。おまけにその常務を待って、会議が15分、30分遅く始まる。全国を回っていて、そんな企業は珍しい。それを組織の優しさとは言わない。緩んだ組織と呼びます。そしてその緩みの原因が後継者候補の常務であると言うことを考えれば、25点でもやりすぎかもしれません」
「残りのふたつを聞こうか?」
「・・・・どこかの企業に買ってもらうか・・・・」
「身売りか?」
「はい」
「もうひとつは?」
「・・・・・自主廃業・・・・」
「嫌な男だな、君は」
「すみません」
「コンサルティングにきて、息子の悪口は言うは、組織の悪口は言うは、身売りや自主廃業を勧める・・・・。とんでもない男だな」
「・・・・・すみません」
「まあ、いい。ちゃんと仕事をしていると言うことでもあるんだろうからな。しかし実に不愉快だよ」
「はい」
「お願いがあるんだが、来月も来てくれるかな?」
「はぁ?」
「はぁ、じゃない!来月も来て不愉快な話をしてくれないと困る」
「・・・はい」
「まぁ、俺の責任だからなぁ。俺がちゃんとしていなかった分、今が苦しい。違うか?」
「・・・・・・」
「おい、おい、ちゃんと返事しろよ。俺の問題なんだから」
「社長は私の人生の先輩に当たりますので、頷けることと頷けないことがありまして・・・・」
「口も上手じゃないとコンサルタントは務まらないか。ところでうちの息子は鍛えなおせないだろうか?年齢的にもうむつかしいと思うかね?」
「ぶれない、ことです。社長がぶれなければ、出来ないことはない。それだけですよ」
「俺がぶれていた、と言う風に聞こえるね」
「そうだと思います。部長級、課長級は社長が育ててきたはずです。彼らは十分に育っているのに、息子さんだけが育っていない。つまり、息子さんに関してだけ、社長はぶれていた」
「本当に、嫌な男だな。そこまで当事者へ言うか?」
「はい。コンサルタントですから。耳あたりのいいことだけを言うのがコンサルタントではありません」
「・・・・来月も来て、その嫌な顔を見せてくれ。日程はメールで送ってくれればいい。遅くまで悪かったな。ご苦労さん。気をつけて帰ってくれ」
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10月の「とじき塾」は、【組織活性化のプロセス解説】です。どんなに緻密な仕組みを作り上げても、それを運用するときに不可欠な要素があるのです。それを確立しなければ、組織は活性化しません。なぜ組織が活性化しないのか、活性化した成功事例、いつの間にか沈み込んでしまった事例などを交え、解説します。





















今日の話題は 2代目の私としては よく分かるような気がします。
一ツ橋の関 満広先生の持論は 中小企業の承継は子供が一番! それだけ親の背中を見て 覚悟が違うのだと・・
社員に社長を・・・といった場合 その社員は奥さんに反対されてしまうのだとか・・・
社長と専務の背負うものは違いますからね。
個人補償や決定の責任など 奥さんには反対する理由が山積ですからね。
相続で株式を取得できるのも たしかに魅力的です。
かといって 認めてもらわないことには 世襲の引継ぎというのも 若手社員のモチベーションの上からも問題。
稲盛さんが 実践経営塾のなかでも その部分の気持ちお持ち方 アピールの仕方について多くのページを割いています。
こういう問題についても突っ込んでゆくのですね。
コメントありがとうございます。
「後継者」のつらさは「後継者にならなくてはならない」というつらさでもあります。時代の変化が速度を増すときに、跡を継がなくてはならないきつさは、おそらく当人にしか分からない。
多くの「後継者」が悩み、同時に「先代」が悩みます。そして、組織のつらさもまた、後継者の【器量】によってその後が決まるという理不尽さにあります。
経営者の「本音」に触れるとき、こちらの身もまた引き締まります。
今後ともよろしくお願いいたします。
とじき
私も後継者候補であり、現社長や次期後継者を見て経営者として必要なことは
「ぶれが無い」ことであると思っていますし、以前もそう書きました。
しかし、このコラムを読んでわたしの覚悟も知恵ではなく知識どまりだったと痛感している所です。
今、動画サイト等で静かに人気を呼んでいる大槻ケンヂの「人として軸がぶれている」という曲があります
歌詞
ttp://www.kasi-time.com/item-15800.html
この曲が共感を呼んでいる所が今の日本を反映しているなぁと感じます。
どうにもならない現実に絶望してみたり、
開き直って全肯定してみたり、
世間に認められる期待の諦めというか現実を受け止められずにおどけてみたり・・・。
そんな世の中で人に認められ、器量を磨くのは大変なことですね。
自分の事ながら、えらい道を選んでしまったものだと改めて思います。
場合コメントありがとうございます。
【器量を磨く】のは、本当に大変です。
私の場合、若い頃から磨いていなくて、中年から慌てて磨き始めたら、ずいぶん無理をして「髪の毛」の方が薄くなっちゃいました。
「世間に認められる期待の諦めというか現実を受け止められずにおどけてみたり・・・」
おどけるつらさもまた、後継者にしかわからないものですね・・・・。
今後ともよろしくお願いいたします。
とじき