「ええ、大丈夫です」
「最近、体調はどうだい?」
「寄る年波、というやつでしょうか。どうも良くないですねぇ」
「おいおい、50をちょいと越えたくらいでそんなことを言ってどうする。少隊長(少体調)ってやつか?」
「はい、まさに・・・。体力に関して40代のときに30代との違いに驚いたことがありますが、50を越えるとそれが一気に加速して、時折生命の危機すら覚える瞬間があります。大きな荷物を抱え長い階段を上り終えたあととか、電車に間に合わず急に駆け出したあとに、動悸、息切れ、めまい、足の震え、貧血、そりゃ目も当てられません。決まって翌々日は筋肉痛と腰痛です」
「ははは、翌日じゃないんだ。翌々日か。そりゃよくわかるな」
「社長はお元気そうに見えますからそんなことはないんでしょうが」
「君のように過激に全国を飛び回っているわけじゃないんでね。だが、何となく判る世界ではあるよ」
「太宰が人気だって話は知っているか?」
「はい。新聞記事か何かで読みました。太宰治をしのぶ【桜桃忌】に例年の5〜6倍の人が集まったという話でした」
「また太宰治が見直されているということかな?」
「・・・というより、太宰クラスの作家になると【普遍】を描いていますから、どの時代にもそれに反応する人間がいるということじゃないでしょうか。今年はたまたまそういう人々が集った、ということでしょう」
「太宰が描いた【普遍】って何だ?」
「・・・・【人間の疎外】と言うことでしょうか・・・」
「太宰の本は読んだのか?」
「学生時代に、普通程度ですが読みました」
「ああ、若い頃は文学少年だったな。読んではまったかね?」
「・・・いえ、まったくはまりませんでした。同時代の作家としては坂口安吾の方が気質に合いましたし、東北と言う意味からいえば、津軽ではなく岩手県の啄木や宮沢賢治のほうに傾斜した記憶があります」
「君と話していると嫌になるな。土建屋上がりのコンサルと思って話していると、突然坂口安吾が出てくる。おかしな男だな。葛西善三は知っているか?」
「はい。津軽出身の作家ですね。同じく津軽出身の石坂洋二郎や太宰治に強い影響を与えた破滅型の作家です」
「おいおい、進むべき道を間違えたんじゃないのか。今時身近な所で葛西善三を知ってるやつに会えるとは思ってもいなかったよ」
「・・・・・」
「秋葉原の事件があったときな、君の事を思い出した」
「・・・・・?」
「今年の連休の時、ブログに【地雷を踏む】という文章を書いているが覚えているか?」
「・・・・小林多喜二の【蟹工船】の話ですかね?」
「そうだ。ブログで君は〜日本という国家や社会は若者たちに対して【地雷を踏んだ】のではないか〜と書いている。読んだ時には大袈裟なことを書きやがる、と思ったんだが、事件を知った時このことかと思ったよ。私より若者に近い分、君のほうが感覚が鋭い、と言うことだろうな」
「社長、冗談を言ってはいけません。私は今の若い連中のことなんでさっぱり判りませんよ。娘ともほとんど会話不能ですし、さまざまな出来事に関しては高3の息子に解説してもらわなければまったく理解できない。典型的な【昭和のおじさん】ですから・・・・」
「いや、君はブログの中でこう書いているよ。
〜いつの時代にも、時代の先頭を走るのは「若者」なのだ。
どんな時代にも「年寄り」が時代の【扉】を開けたためしはない。
今の若者の姿が、時代と社会を間違いなく映し出している〜
こんな文章が書けるのは、少なくとも若者を理解しているからではないのかな」
「・・・・時代の先頭を走るのが「若者」であり、「年寄り」が時代の扉を開けたためしがない、というのは【普遍】ですから。若者を理解できているかどうかの問題ではないような気がします」
「君は最近の若者を買っているのかい?」
「はい。間違いなく今の若者たちは優秀です。われわれの若い頃よりはるかに彼らの方が上だと思います」
「そうかな。常識をわきまえず、妙な格好をして、勤勉でもなく、協調性もなく、だらしない若者が多いような気がするんだが、それでも今の若者は優秀かね?」
「・・・・、社長、お言葉ですが【時代の子】である以上、全て彼らが正しいのです・・・・」
「そんな馬鹿なことはない。どんなに時代が変っても、人間として変ってはいけないことがあるんじゃないのか?無差別に人を殺したり、フリーターだのニートだの社会に背を向けている連中が正しいのか?そういう屁理屈を言っては困るな」
「・・・・・」
「今の若者には欠けているのがある、とちゃんと指摘すべきではないかね。君の文章を読んでいると若者を礼賛するばかりで、きちんとした道筋を教えることを忘れているんじゃないかと思うよ。せっかく毎日書いているんだから、そのくらいのことはちゃんとしたらどうだ。うちの若い連中も携帯で毎日読んでいるらしいんでね」
「・・・・・」
「嫌味で言ってるんじゃないぞ。君より少し先輩の人間としてお願いをしているんだ。誤解するな」
「・・・・。社長、気分を害されたらすみません。少し話していいですか?」
「構わんよ」
「先日、宮崎県知事の【そのまんま何某】が、県議会のあとで【愛の鞭条例】や【愛のげんこつ条例】っていうものを作れないかな、という談話をしてるのをご存知でしょうか?」
「いや、知らんな。そんな話をしているのか。そりゃ私も賛成だな。暴力や体罰はいかんが、そうした昔のよきものは復活させるべきじゃないのかな」
「・・・・・、社長、そこなんです。問題はまさにそこなんです」
「・・・・・?」
「もし仮に、社長のお孫さんが【そのまんま何某】に小突かれたとしたらどうします?【そのまんま何某】に往復びんたを食らわせられたとしたらどうします?」
「・・・・・」
「私の娘や息子が【そのまんま何某】に小突かれたり往復びんたを食らわせら私は猛抗議します。猛抗議だけではすまないでしょう。下手すると私が【そのまんま何某】を殴りにいくかもしれない。「暴行傷害の現行犯逮捕」「傷害容疑での書類送検」「児童福祉法違反並びに東京都の青少年健全育成条例 違反の容疑での事情聴取」「二度の離婚」している男に娘や息子が殴られたら、私は相手を許しません。これは、一般的な愛の鞭や愛情を持った指導を否定してるわけではないのです。そうしたことを私も認めるし、確かにそうかもしれないという思いはある」
「・・・・・」
「しかし、肝心なことは、やられる若者たちがそれを知っているというということです。自分たちを殴る相手の薄汚さを、殴られる若者たいは知ってるんです。偉そうなことを言う国会議員がどれだけ汚いか、マスコミとやらがどれだけ大嘘を書いているか、社会がどれだけのごまかしやきれいごとで成り立っているかをすでに若者は知っているのです。その時、年寄りは若者たちを指を指してあげつらうことが出来るのかどうか」
「・・・・・」
「彼らを育てたのはわれわれです。親だけではなく、社会が子供を育てるものだとしたら、紛れもなく今の若者を育てたのは、われわれなのです。その中で、彼らはまさに【時代の子】なのです。そして、間違いなく彼らが次の時代を作るのです。いつの時代にも、年寄りに 【時代の扉】を明ける力はない。彼らが疎ましく思えば、彼らの正しさで平気で年寄りを駆逐するでしょう。今は【平時】ではないと思っています。いつの時代も【乱世】は若者たちが切り開いてきたんです」
「・・・・」
「少し極端な話になっています。殴られる若者たちにつまらない連中が多いことを私は知っています。けり倒したくなるような若者も多く見かけます。同時に、いなくなったほうがいいような大人もたくさんいるんではないでしょうか。そこをはすして、現代の若者につては語れないような気がしています。すみません。気分を害されたとしたら謝ります」
「いや、面白い話だ。なるほど【時代の子】ね・・・。一度、公務員に変態が多いという話を聞いたことがある。人間、失業する心配がなくて、飯が食えて、暇になると変態に走るんだそうだ。変態に孫が殴られたら俺だって切れるな」
「公務員に変態が多いかどうかは私は知りません。父も公務員でしたし、弟は現役の教頭ですけど、どちらも変態ではなかったと思います」
「ははは・・・」
「君と話していると、真剣勝負をしているような気分になることがあるな。まぁ、高い金を出しているんだ。そのくらいの切れ味がないと、つまらないな。どうかね、うちの若い者で私を駆逐しそうな勢いのあるやつはいるかね?」
「はい。二人ほど・・・・」
「ほう、誰のことだろう?」
「問題は育て方ですから、名前は勘弁してください。今、育てている真っ最中です。そのうち、改善ののろしを若者たちが上げますから」
「君はどっちの味方かな?年寄りと若者の?」
「私はコンサルタントですから、決まっています」
「ほう、どっちだ?」
「会社の味方です」
「・・・・・。会社の味方ね。確かに・・・・。来月は晩飯でも食わんか?もう少しゆっくり話そう」
「・・・真剣勝負なしでお願いできますか。社長と話す時、私のほうこそ気が抜けない。宮本武蔵ではないので、飯を食うときくらい隙を作らせてください」
「はは・・・。判ったよ。ご苦労さん。気をつけて帰ってくれ。今夜は大雨が降るらしいぞ」
「はい、お疲れ様でした」
さて今日のとじきは何位でしょう?
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MoKuJi
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氏の感性の鋭さに感心いたします。
今後も、鋭い指摘を期待しております。
コメントありがとうございます。
髪が薄くなるたびに、感性も薄くなっておりますが、何とか頑張ろうと思っております。
今後ともよろしくお願いいたします。
とじき